認知症ケアをしてたら私がケアされたよねって話

ざっくり言うとこの療養型病院で、パートを始めた。
リハビリのお仕事なんですが。
約5年ぶり…
鈍って鈍って仕方ねぇ。

90代のマダム。
なかなか離床してくれず、リハにも拒否的。
『私は寝るのが好きやねん』
と目も開けず言う。

でしょうね…。
いやもう、ここまで長生きされてきて、もういいっすよ寝てて、って言いたいとこだけど
それじゃ入院目的がね。

認知症もおありで。
認知症の方に、何かを無理強いして上手くいった試しなぞ一度たりともない。
一応積んできた経験のなかで、そう学んできてたので。
今回もじわじわ攻めてみることにする。

寝衣や布団が乱れてたので、
「これじゃ寒いでしょう~ちょっと直しますわ~」
みたいなとこから。
『そうか~ありがとうな~助かるわ~』
めちゃくちゃ感謝してくれるマダム。
直しながら、世間話。
「いや~もうこの頃寒いですよねぇ~もう私も布団から出なくていいなら出たくないですわ~
でも私も一応主婦やから、それにこの仕事もあるしね、そういうわけにいかんのですわ~」
『あら、そうなん。それは忙しいねぇ』
「うんでもね~こうやって○○さん(マダム)がありがとうって言ってくださるから、やりがいありますよ~」
『そう?いやほんまありがたいわ~もう神さまやわ~』
“マジ神”とか連発する若者並みに
あんた神さまやわ~って繰り返し私に言ってくれるマダム。
「もう~そんな言ってくださってありがたいわ~ほんとに、感謝の言葉を素直に伝えるって、大事なことですよねぇ~もうウチの旦那なんて、ありがとうどころか家に帰ってくるなりブスーっとしてるんですよ~ほんまにもう~」
『あ~それは旦那さん、あなたに甘えてるんやわ』
「そうなんですか?」
『そうやわ~外で気ぃ張ってな、大変やから家に帰ってきたら、奥さんに甘えてしまうんやわ』
「あ~そういうことなんですかねぇ~主人(←夫の呼び方を迷走している)は営業の仕事してるんですよ」
『あ~それは大変やわ、いろんなお客さんおるしな~それは大変やで~それで帰ってきたら、やっぱり奥さんに甘えてしまうんやな~』
「そうなんですねぇ~」

とかなんとか話してるうちに、かすかに目は開いていた。

何ターンかのやり取りを経て、とりあえずこの日は退散することにした。
離床は図れていない。
でも、私なりの狙いは成功。
第一段階として、信頼関係を築くこと。
会話のやり取りを通して、多少なりと認知機能の活性化。
あえて私のパーソナルな部分をさらして、マダムの“マダムたる部分”をくすぐる。

思いのほか、ズバッと返球が来て驚いた。
あ、そうか、夫は甘えているのか…

実はここ数日、ほんとに夫の態度にはイライラしていた。
疲れて帰って来ると、決まってこちらの出来てないとこ、足りてないとこをわざわざ指摘してプリプリしてる。
疲れてる→イライラしてる→言葉のチョイスにもトゲがある。
いやもう、疲れてるんやったら飯だけ食って早う寝ろ。
要らんこと言うな。

でも。
仕事で抱え込んだストレスを、家に帰ってからでないと発散出来ないのだとしたら…
まぁ、そうなるのも仕方ないか…

って思えるかっ

まだ私はそこまで寛大じゃない

でも、マダムの言葉でちょっとそんなとこに気付けた気がして、
まぁそれなら、あの夫の“妻”として存在する価値はあるのかな、とは思えたりもした。

認知症はあって、活動意欲も減退してるけど
人を励ます言葉がすーっと出てくる
マダム、さすがです…
ダテに90年生きてきたわけじゃないんすね…

そんなわけで
私は認知症のケアをしに伺ったけども、
私自身マダムにケアしてもらっちゃったなと思ったのでした。

ちゃんちゃん。